岡山地方裁判所 昭和26年(行モ)1号 決定
申請人 宮北左喜雄
被申請人 鉾立村選挙管理委員会
一、主 文
本件申請はこれを却下する。
申請費用は申請人の負担とする。
二、事 実
申請代理人は、申請の趣旨として、鉾立村長である申請人の解職請求者署名簿の署名に関する申請人の異議に対し、昭和二十五年十一月二十六日被申請人がなした決定及びこれを前提としてなす一切の行政処分の執行を停止する、との裁判を求め、その申請の理由として、申請人は鉾立村長であるが、村内の井上義夫外三名は昭和二十五年十一月初旬村長解職請求者七百九十六名の署名簿を被申請人に提出し、右署名簿が選挙人名簿に記載されたものであることの証明を求め、被申請人は署名簿中七百九名についてその証明をなしその頃村内において村民の縱覧に供した。しかし、右署名中には代筆によるものなど多数の無効と思料されるものがあつて有効署名は村内全選挙権者一千四百五十名の三分の一に達しないと思料されたので、申請人は同月十二日被申請人に対し、この署名簿の署名に関する異議を申立てた。これに対し被申請人は七十六名の署名を無効としたが、その余の全署名を有効とし、同月二十六日その旨の決定(以下本件決定と称する)をなし、同日これを申請人に通知した。しかし本件決定には次のような違法がある。
(一) 被申請人は申請人がなした署名簿の署名に関する異議に対し、当然なすべき署名の調査をなしていない違法がある。即ち、申請人は署名簿の署名の無効な実例として三百五十一名を示したところ、被申請人はその内二百九十五名についてのみ調査し、その余の署名については全く調査していない。
(二) 被申請人の調査は初から署名を有効としたいという意欲をもつてなされた不公平なもので違法な処分である。例えば、
(イ) 被申請人が調査のため村民に出頭を命じ村民が出頭した際、署名代表者に代る署名蒐集人の井上廉一郎が、出頭した村民を物陰に呼んで被申請人に対する應答について色々と牽制したり強制したりするようなことをしたことがあつたが、被申請人はこれを默認した不公平がある。
(ロ) 被申請人は右調査の際、署名を眞意に基いて自分でしたという印刷物を作つて置いて、出頭した村民に「ハンコを押したか」と簡單に尋ね「押した」と答えるとすぐその印刷物に署名を命じ、「私は何も知らずに判を押した」と答えると「その訳をくわしく書け」と命じ、それを書かぬと結局その署名を有効としたような不公平がある。
(ハ) 申請人が右署名中署名代表者又はその委任を受けた蒐集人以外の高畠久雄が署名を蒐集したと申立てたのに対し、被申請人は、このようにして蒐集された署名因木幸四郎一家五名の内四名を無効とし、内一名は姓が違うという理由で有効としたような不公平がある。
(ニ) 代筆を有効としたものがある。例えば番田合引部落では十五人に及ぶ代筆の署名を全部有効とした、番田二東でも同様殆んど代筆であるがこれも有効とした、大字北方の松原正雄の代筆したおばあさんの分も有効としている。
(ホ) 蒐集人長畑光太が署名しないと共産党並に村の破壞者と見られるといつて集めた署名例えば川中小虎、川中久野その他多数あるのに殆んどその実体的調査をしていない。
(三) 署名に代筆が多い。署名しない者は共産党だとか村の破壞者だとかいつて集めた脅迫の署名が多い。趣旨不徹底の署名が多い、署名代表者によらないで蒐集した署名が多い、等の原因により有効署名が法定数である選挙権者の三分の一に達しないものを有効な解職請求と認定した違法がある。
從つて本件決定は違法として取消さるべきものである。そこで申請人は昭和二十五年十二月十一日御廳昭和二十五年(行)第三十一号解職署名簿の異議に対する決定処分取消請求事件として提訴したが被申請人は本件決定に基いて賛否投票の準備を進めている。かくては申請人は被申請人の違法なる処分により村長の地位を奪わるゝが如き事態を生ずるやも知れず一方本件決定に基いてなす賛否投票や村長選挙のためには各回少くとも三万円の選挙管理費用を要し、五百余戸の貧村としては相当の負担であり、又、鉾立村としては目下砂防工事や新制中学校等に関する重大な事業の継続中でこれ等にも重大な支障を生ずる等、村政は事実上停止される結果となり償うことのできない損害を生ずる虞があるので申請趣旨のような裁判を求めるため本申請に及んだ、と述べた。(立証省略)
三、理 由
被申請人が申請人主張の本件決定をしたことは当事者審訊の結果により明かであり、申請人がその主張のように本件決定の取消の訴を提起せることは当裁判所に顕著なところである。しかしながら本件決定の執行により申請人に対し償うことのできない損害を生ずべき点については当事者審訊の結果その他申請人の全立証によるもこれを認め難い。從つて申請人の本件申請はその余の申請理由に対する判断を俟つまでもなく失当であるのでこれを却下すべきである。よつて申請費用の負担について民事訴訟法第九十五條第八十九條を適用して主文の通り決定する。
(裁判官 井上開了 菅納新太郎 富田善哉)